当工場のある福井県池田町には、語り継がれてきた民話があります。味噌とは直接関係ありませんが、味噌と同じく日本人のルーツがあると思うので紹介したいと思います。取り上げている民話は、武生高等学校池田分校が発行した民話集に基いています。ただ長い話が多いので、大意を損なわない程度に手を加えております。ご了承ください。今後も随時取り上げてゆく予定です。タイトル末尾の地名は、集落の名前です。

 池田の民話(1)小さな阿弥陀様 ―大本(おおもと)

 昔、大本に”ごんじい”という心優しいじいさんがいた。ごんじいの家には小さな阿弥陀様があった。信心深いごんじいは、<どうか阿弥陀様、かかあ(母親)のいる極楽とやらに早くうら(私)も連れて行っておくれ>と願いながら毎日手を合わせていた。ところが阿弥陀様は一向にごんじいの願いを聞き届けてくれない。しびれを切らしたごんじいは、やがてとんでもないことを考えるようになった。<うちの阿弥陀様は小さいから、うらの願いが叶えられんのじゃ。もっといけぇ(大きい)仏様でないとあかんのじゃ。そうじゃ、清水寺の仏様と取り替えよう>。
 思いつくとごんじいは居ても立ってもいられなくなった。さっそく阿弥陀様を風呂敷に包むと、肩に担いで京の都の清水寺に向かった。清水寺は大きく立派なお寺だった。これでいよいよ自分の願いも叶うに違いないと、興奮しながらごんじいは参道を登っていった。もうすぐ本堂に辿り着くという時だった。近くの僧堂から一人の小僧さんが泣きながら出てきた。ごんじいは小僧さんを呼び止めると、「小僧さん、どうしなはったんかいの」と聞いた。すると小僧さんは、「おまえは体が小さいから間に合わんといって、追い返されてしまいました」と答えた。それを聞いてごんじいは「それは気の毒に。小さいから役に立たんなんてひどいことを言うもんじゃ」と言って憤慨した。その時だった。ごんじいははたと気がついた。自分も同じことをしていると。
 ごんじいはさっそく風呂敷包みを開けると、阿弥陀様に「かんねんしておくれの(堪忍して下さい)」といって謝った。包みの中の阿弥陀様は、それを聞いてにっこりと微笑んだということだ。