夕方の5時から6時頃になると、”床(とこ)もみ”作業のためこうじ室(むろ)に入る。床もみとは、米を空気に触れさせることによってこうじ菌の発育を促す手入れのことである。
 丘状に盛られた蒸し米を、手で揉みほぐしながら少しずつ崩してゆく。かつて洗濯板というものがあって、衣類を板にこすりつけながら洗ったものだが、あの要領で崩してゆく。床もみが終わると、蒸し米を再び盛り上げて布で包み、むしろなどを掛けて保温する。あとはこうじ室の見回りを続けながら翌日の準備をする。
 2日目の朝になると”盛り込み”と呼ばれる作業に取りかかる。朝7時頃に作業場に行き、用意しておいた”こうじ蓋”(むろぶたとも呼ぶ)をこうじ室の中に運び入れる。こうじ蓋とは、縦60cm、横30cm、高さ5cmの木製の箱で、2升の米が入るように作られている。約60枚のこうじ蓋を運び終えると、1枚のこうじ蓋に1升枡で2杯ずつ蒸し米を入れてゆく。この作業を盛り込みという。この頃になると、米の表面に白い斑点のようなものができている。こうじが順調に発育している証拠である。盛り込みは適量を守らなければならない。盛り込む量が多すぎると、熱の放散がうまくゆかずにこうじがべとつき、失敗こうじとなってしまう。
 盛り込みが終わると、こうじ室の壁伝いに組んである棚へ、こうじ蓋を並べてゆく。1枚のこうじ蓋の右端に、次のこうじ蓋の左端を重ねながら並べてゆく。この並べ方を”すぎばい積み”と呼んでいる。こうすることによって通気がよくなり、こうじ菌の発育が進む。また横一列に並んだこうじ蓋の端の方に木片を嵌めれば、上に何段でも積むことができる。私の工場のこうじ室では現在2段積みにしているが、かつては5段6段と積んでいたこともあった。並べ終わると、上に”こも”(藁で編んだすのこ)や布を被せた。現在は衛生面から藁製品は使用していないので、紙製のもので保温・保湿している。盛り込みが終わると、定期的にこうじ室の見回りをしながら、明朝の”出(で)こうじ”すなわちこうじの完成を待つことになる。